新潟県北蒲原郡聖籠町立聖籠中学校
 〜個性ある最先端の統合情報システムの試み〜

文教施設総合研究所 池崎暢弥・野田  肇

1.はじめに
 平成13年4月に開校した(新)聖籠中学校は、(旧)聖籠中学校と亀代中学校が統合してできた新築の学校である。
 この学校は2階建ての校舎と地域交流ラウンジ、体育館で構成されており、教科センター方式を採用した新潟県初の公立中学校である。
 また文部科学省のミレニアム計画に則ったIT(Information Technorogy)化を取り入れ、情報化技術の面でも、一つの凡例となりうる個性ある最先端の統合情報システムの構築を試みている。

2.現場の意見の収集
 まず私たちは教育委員会や学校の先生方からの意見収集を当方の提案をたたき台として行っていた、結果次のような意見が多くあげられた。
a.「情報化するために大金を投じても、追加投資ができず陳腐化してしまう。」
b.「教科教室にパソコンを配備しても使えるどうやって使っていいかわからない?」
c.「煩わしい情報システムが入るとさらに忙しくなってしまう。」等
 これらの意見は、まさに先生の本音だろう。
 企業の情報化とは違い、学校は効率よく型にはまったような子供達を量産する必要ははないのだと感じた。

3.日米の情報化先進校の調査
 私たちは、システム構築の手がかりを探して、日本と米国の最新の情報化教育の現場をかなりの数を1年かけて視察した。
 その結果、設備面、また先生・生徒のパソコン等のスキル面も、日本も米国も情報化先進校を見る限りそれほど差がなかった。しかし、ITの利用、応要面ではどう見ても米国の学校は日本より進んでいた。
 それは何故?
私たちは、大学教授・教育委員会・学校の先生・建築家・設備設計者・システム設計者といった各分野の専門家との意見交換を行い、この差を考えた。そして次の3つの理由が浮かんできた。

(1)コンピュータ本来の機能として活用
 コンピュータの優れた能力は、その演算処理の速さと豊富なデータの蓄積量にある。 マルチメディアやネットワークはその基本能力の上に乗った応用の一つにすぎない。
 米国の先生は膨大な手作り教材等の書類の整理、予習、スケジューリングなどコンピュータの能力を借りないと自分の仕事を処理出来ない状況に置かれている。また、それらのデータのグループウェア(共有)に、ITは実に便利なのである。
 米国の先生は教育への活用だけでなく、事務処理を効率化するためにもITを積極的に利用している。いや、切羽詰まってITを活用しているようにもみえる。
 一方、日本には優れた教科書があり、コンピュータにより拡張された能力を使わなくても済んでいた。また、先生方でデータを共有する必要性も少なく、さらに、米国に比べて優れたデジタルコンテンツ(電子教材)が少ない。これらが日本で学校のIT化が爆発的に普及しない起因ではないか。

(2)統合的にITを利用する意識
 米国はコンピュータを空調や照明の遠隔操作のリモコンのように使ったり、電話も専用のデジタル交換機を使わずに情報システムを利用したものを使い始めている。
 最近、日本でも携帯電話から自宅の空調や照明を操作したり、自宅内に設置した定点カメラの映像を閲覧できるシステムが登場しているが、これもIT利用の一例である。
 また、日本の中学校では校内放送システムで生徒達を呼び出すことは当たり前だが、調査した米国の中学校では、放送のかわりに廊下や教室に設置してあるモニタにコンピュータを使って映像や文字を配信し、生徒達が自分の意思で情報をとるようなシステムを構築していた。
 このように米国では情報システムをインフラとして統合し広い意味でのIT化を進めているが、日本の学校建築では、まだ電気系や機械系と縦割りの施工区分になっているため、それぞれのシステムが情報系と有機的に繋がるような発想はなかなか難しい。

(3)システム導入後のフォロー(テクニカルスタッフ制度の確立)
 調査した米国の学校には、教育委員会にサーバなどのシステムを集中設置するセンター方式と学校単位にシステムを設置する単独方式の2つがあった。そのどちらにしてもシステム全体を責任持って運営管理するテクニカルスタッフが2、3人必ず選任されていた。
 このテクニカルスタッフは自分専用の部屋を持ち、情報システムだけでなく、設備システムのメンテナンスも行っている。米国のテクニカルスタッフは元理数系の先生という人が多く、先生時代と違い授業はまったく持っていない。
 さらに保守管理だけでなく、先生方のパソコン利用の相談や要望を聞きながら、学校全体のシステムの検討を行い、バランスの良いシステム拡張を行う。そのため、先生方は道具としてパソコンなどの情報機器を安心して使うことができる。
 これらの点に留意して情報システム構築の打合せを重ねた。


4.構築した統合情報システムの特徴
(1)陳腐化しにくい柔軟性のあるシステムの整備
 従来の情報系システムは、特定のOS(Operateing System )、コンピュータに合う専用のアプリケーションソフトを利用するため、メーカ色が強く出てしまう。
 その結果、システムのバージョンアップ等を怠るとすぐに陳腐化し、最新のコンテンツが利用できなくなる問題が発生していた。実際、日本の情報化先進校の多くはこの問題に直面していた。
 聖籠中の統合情報システムは、レイヤ3以上のギガビットスイッチングを使ったネットワークと汎用的なWeb 端末により構築している。そして、特定のOS(Windows 等)やコンピュータによらないWeb 技術を最大限に利用している。これは、設備が陳腐化(コンピュータにかわるWeb 端末が普及)してもネットワークの帯域が確保されていれば、コンテンツは新しいものが使用できるという新しい考え方である。このように、今後、普及が予想される動画コンテンツ教科書なども各教科教室でストレスなく利用できる環境を構築している。
 また、教科センター方式という学校運営に対してフレキシブルな情報提供を可能にするために無線LAN やPHS (内線電話用)も整備されている。

(2)統合化システムによる教育コンテンツのサポート
 今回、空調や照明の自動運転制御を行う設備管理システムなどの制御系ネットワークと情報系ネットワークをスクールオープンネットワークシステムにより有機的に接続した。
 基幹の高速ネットワークを情報システムのみに利用するのではなく、Web 技術を応用した設備管理システムにも活用することで、設備の計測データなどを情報システムと共有化し、データベース化できるようになった。
 設備管理システムはスケジュール管理の関係から教務室に設置されるが、テクニカ ルスタッフ室のパソコンのブラウザ(閲覧ソフト)でも監視できるため、機器が正常に動作しているか、故障は発生していないかの診断も即時に行える。
 また、機器の遠隔操作も行えるため、地域交流ラウンジや図書室のそれぞれのパソコンから、校舎と異なった運営管理を行うことも可能である。
 さらに、設備管理システムで蓄積されている学校全体の使用電力量や太陽光発電の発電量・日射量を環境観察システムとして、教育用のホームページで逐次表示させ、生徒達に生きた教材を提供できるように工夫されている。
 太陽光発電を設置した全国の学校とインターネットを利用してデータの交換をすることで、日射量の違いなどの地域性を学ぶこともできると考えている。
 また、予習や反復学習に利用できるよう、先生や生徒が簡単にコンテンツ(情報)を作れるWeb 技術を応用したナビゲーションシステムを提供している。
 このシステムにより簡易テストを先生方が作成して、生徒達は自分のスタンスで自己学習をすることができる。また、そのデータは蓄積され、今後の授業の資料として活用することもできる。

(3)テクニカルスタッフへのサポート
 聖籠町では専任のテクニカルスタッフの派遣が決定していたため、その方の教育が課題であった。そこで、システム稼働後も1年間は、当社の専任スタッフを派遣し、OJT(On the Job Training)により教育支援を行う体制をとっている。
 また、さらなるサポートとしてリモート(遠隔)保守、トラブル処理フローシートの整備も行っていく。
 このように学校全体を有機体としてとらえ、その全てを汎用的な機器で構成することで、地域性や学校の目標などを取り込める個性あるシステムを作り上げるよう心がけてきた。今回納入したシステムが、各地域や学校ごとに個性ある生徒を育てられる、そんなわくわくするような期待を抱かせるシステムに成長してくれればと切に願っている。
 最後に、東洋大学の長澤教授、新潟大学の西村教授、聖籠町の高口先生をはじめとする関係者の方々と文教施設総合研究所殿のご協力に感謝すると共に、今回の事例が今後の学校IT化検討の際に少しでも役に立てば幸いである。
(注1)Windows は米国Microsoft 社の登録商標。