AEEアジア教育施設視察

シンガポールのIT化への動向 文教施設総合研究所 池崎暢弥


 
日程 2002年 3月20日〜23日
◆参加者 敬称略

  • 長澤 悟    東洋大学工学部教授 団長
  • 霜田 昌   (財)文教施設協会
  • 高口和治    聖籠町教育委員会指導主事
  • 杉本 誠    東芝エンジニアリング(株)
  • 廣瀬和憲    東洋大学工学部大学院
  • 新田 勇    文教施設総合研究所 顧問
  • 常田幸正    文教施設総合研究所 所長 
  • 池崎暢弥    文教施設総合研究所 技術部長 
  • 野田肇     文教施設総合研究所 研究員
  • 山本悦史    文教施設総合研究所 研究員


3月21日
AM:
  NUS   National University of Singapore
  http://www.nus.edu.sg/

PM:
  TEMASEK POLYTECNIC
  21 Tampines Avenue 1
  Singapore 529757
  Telephone 65-780-5189
  Facsimile 65-78-8180
  http://www.tp.edu.sg

3月22日 AM:
  Saint Anthony's Canossian Primary School
  1602 Bedok North Ave 4 Singapore 469700
Tel : 449 2239
  http://www.moe.edu.sg/schools/sacc/

PM:
  HUAMIN PRIMARY SCHOOL
  21 Yishun Avenue 11 Singapore 768857
  Telephone 65-752-9004
  Facsimile 65-755-2455
  http://www.moe.edu.sg/schools/huamin/



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・初めに

 アジアの宝石と言われているシンガポール共和国、この国はIT先進国としても知られている。今回短い期間であったが、ITに関する教育設備の視察を行った。
さて今回の視察だが、まず準備段階で問題が持ち上がった。
シンガポール共和国概要 資料1参照
 シンガポールの学校は、日本人学校等は別として、全ての学校が国の教育省の管轄下に置かれている。そのため、直接学校へ視察の依頼ができず、国の許可を得らなければ視察 は出来ない。とは言うもののITを使った教育に関しては、各種メディアにより日本でも頻 繁に紹介されていることもあり、今回の視察依頼も簡単に許可されるだろと思っていた。
 視察依頼は旅行代理店に委託していたのだったが、それが甘かった。なんと出発予定2 週間前になって、「視察を断られた!」と国内トップの某旅行代理店から泣きの連絡が入 ったのだった。さらに旅行代理店の弁では、民間機関に対する学校視察の受入はかなり厳 しいとのことであった。

・シンガポールの綱渡り

 粘りの無い僕はこの時点で、今回の視察を断念していた。しかし当研究所の常田所長は、 直接断られたわけでもないし、駄目もとと言うことで、直接日本のシンガポール大使館に 連絡を取ってみた。そして、驚いたことに何度かの強力なネゴにより、なんと視察依頼し ていた各学校より許可がおりたのだった。それはまさに出発3日前だった。
 過去、フロリダに学校視察した帰途において、マイヤミ発シアトル便を、僕も含む同行 者のエコノミーチケットを現地のアメリカンエアラインのオバサンを口説いて、ビジネス クラスに無料で変更してもらった。「マイヤミの奇跡」以来のビッグな仕事であった。こ れを今回は「シンガポールの綱渡り」とでも仮称しておこう。
 ともかく、まさに綱渡り状態、ワールドカップの日本の予選リーグ戦通過同様のパター ンで視察が実現したのだった。

・熱なんです

 さて、これで一件落着と思いきや、今度は僕に問題が勃発した。出発日当日になんと、 山積みされた仕事の処理から逃れ、やっと視察に行けると言う安心感からか、いきなり体 調を崩しまった。どうやら風邪らしい。
横浜にある成田行きのバスターミナルから熱で朦朧とした状態だ。成田のラウンジ体温 を測るとなんと38度もある。しかし同行する仲間に、飛行機に無理矢理乗せられた。飛 行機の中では薬と気圧の微妙な関係より、益々意識が薄れていったのだった。
 気が付くとそこはシンガポール。3月末、温暖化の影響か?桜が満開の日本から熱帯へ 到着した。ここが死に場所かと思いきや、なんか湿度のせいなのか、気分は何とか持ち直 した。しかし、きついのは確かだ。そんな波乱含みでやっと視察が始まったのであった。

・視察へ3月22日

 シンガポールに到着した。すでに夕方で、ホテルにチェックイン後、僕はふらふらで寝 るしかないので、すぐにベッドの人となった。はたしてこの間同行者がスペシャルマッサ ージを受けていたかどうかは知るよしもなかったのだった。
 翌朝、朝食後、すぐに視察へ出発する。ミニバスで移動だが、市街地に乗り入れる時に ロードブライシング(市街地に乗り入れる車から料金を徴収するシステム)が目に付く。 日本でも高速道路の料金所で同じシステムを導入しているが、イニシャライズの費用が高 いため、現在普及が頓挫している状態だ。
このシステムの目的は、市街地へ乗り入れる車を制限するためのものである。シンガポー ルのこの種の交通システムは、街の渋滞、公害対策が第一なようだ。とにかく、個人は充 実した公共交通手段を利用することが原則となっている。実際車を持つには、日産のカロ ーラが400万円するため、よほどの理由がないと購入は出来ないと思う。それでも日本 で購入するより3倍近い値段がするベンツが多いのも気になる点であった。それだけステ ータスという意味において車の価値が高いのだろう。

・シンガポールの教育制度

 シンガポールの概要は資料2を参照ください。
 シンガポールは赤道近くにある熱帯都市国家だ。将来地球温暖化で海水面が上昇したら 消えてしまうだろう。そうなると京都がシンガポールのような熱帯都市になるかもしれな い。京都議定書からみのブラックジョークだが、あながち可能性のない未来図でもない。 だからシンガポールは環境保全に非常に神経質なのかもしれない。ともかくガムも国内に 持ち込み禁止だ。アメリカン人旅行者はどうしているのだろうかと心配になってしまった。
 さて、そんな暑い国で、よく勉強ができるもんだと思うのだが、ここは非常なる生存競 争を子供達に強いることにより高学力を生み出しているようだ。
 シンガポールの教育制度「資料2」を見ていただくと分かるが、まず、小学校4年生終 了時に3のクラスに振り分けられる。ここからエリートコース、並コースと区分されていく。
 そして最終判定は小学校卒業認定試験で行われる。敗者復活の活路もあるが、なかなか 厳しい教育制度ある。現在の日本では、このようなこと行うことはおそらく100%不可 能であろう。それが日本式の教育である。
 今回の視察は、大学(ここは校内を散歩)から始まり、ポリティク(日本の専門学校や 最近設立されてつつある科学技術高校に近い)をじっくり見て、比較的高所得者層の小学 校と一般的な小学校の2校、これもじっくり見せてもらった。

・IT化 マスタープラン

 教育のIT化計画としてマスタープランがシンガポールでは1997年からスタートして20 02年まで継続されている。今年は2002年度であるから、一応の成果が出ている状況だ。こ のプランは21世紀を生き抜く人間の能力「考える力」「学ぶ力」「コミニュケーション の力」を育成するためにITを基盤に置いた教育システムを構築することである。
 注目すべき点は、インフラとしてのブロードバンドがすでに汎用なものとなっているし、トータルパソコンの台数が生徒2人1台、3年ごとに新品のパソコンに更新されような状況であるが、あくまでもIT、パソコンはツールであると言い切っていることだ。この点は日本のIT土建的な発想とは大きな違いである。
 やはり、トップダウン的に大きな力がないとITという波を乗り切るのは非常に難しい のだろう。
・マスタープラン
http://www1.moe.edu.sg/_nf_/iteducation/masterplan/welcome.htm
・National University of Singapore

 シンガポール国際大学は、特にアポイントを取っていたわけでないので、キャンパスを バスで一通り回った。外見を見た限り、ゴミ一つない綺麗なキャンパスであった、校内に 大規模な学生用のアパートメントがあり、その建物のデザインが目を引いた。地上15階 程度のビルで、まるでレゴブロックを組み合わせたようなビルだ。また色がパステル調。 シンガポール全体に言えるのだが、公団の団地も含めてパステルカラーのビルが以外と目 に付くのであった。日本の公団の団地の灰色よりはましだが、それも自然の色の濃さと対 峙するから、釣り合うのであろう。

・TEMASEK POLYTECNIC

 この学校は日本で言えば工業高校、専門学校の位置づけだ。エントランスは広々とした 円形を基本とした建物で、敷地は相当に大きなものだが、廊下や通路がオープンになって おり、いきなり外から教室に入るようなデザインである。暑い国なので、オープンスペー スは風を通りやすくして、空調はくクローズドされた教室のみで済まそうという省エネ構 造なのであろう。
 広い廊下脇のスペースに置かれた机と椅子はほとんどが学生で埋まったおり、共同学習 や、読書とか、今時の日本の大学ではみることない外で勉強する学生の姿があった。 とはいえエアコンのない外で勉強とは、暑いのご苦労なことだ。このような割り切りは、 日本のような過度な学生サービスとは対局した考方だ。
 学校としての特色としては、教育目的は卒業したら即戦力の社会人や起業家を排出する ことだ。従って、IT学科の生徒が勉強するソフトウエアは世界標準のものを選択してい る。たとえばWebオーサリングソフトはマクロメディアのドリームウエバー、ソフトと してはプロユースのものだ。日本の学校ではほとんど使われていない。しかし世界標準だ。
 また、一般的な教育ソフトはWeb上で動作する形となっている。これもクライアント パソコンとかOSに左右されないことで、グローバルスタンダードの考え方となっている。 日本との比較だが、やはりまだ教育ソフト関係はWebベースのものは使えるものが日本 では少ない。
 視察したある教室で、ソフトのヒューマンインターフェースのデータを集めていた。こ れは機能だけではなく、どれだけそのソフトが使いやすいか?を検討するためのデータの 収集だ。つまり機能も大切だが、使いやすくなければ意味がないのだ。そんなことまで高 校生が授業で教わっているとは、やはり即戦力を目指しているかだろう。ただ大きな発想 がそこからは出ては来ないだろう。その善し悪しは別の問題だが、それにしても、よく勉 強している。

・Saint Anthony's Canossian Primary School

 到着するとすぐに、エントランスで僕達を迎えてくれた小学校3年生の女の子達。 「さくら、さくら」の日本語での合唱が始まった。振り付け付きのその歓待は、ともかく 驚いてしまった。こんなお出迎えをうけるのは国賓並ではないか・・・・と。
 ここは、日本で言えば私立の女子校(小学校)という立場であろうか?
 ITの設備としては、各教室に据付のプロジェクターとパソコンがあり、先生はまるで プレゼンするかのように授業を進めている。またパソコンルームにはかなりの台数のパソ コンが置かれている。学習コンテンツは、今まではCD-ROMによる配布だったようだが、現 在は中央設置に設置されたWebベースのデータベースからコンテンツを購入する形に移 行しつつあった。
 教育のIT化先進国というシンガポールだが、視察した第一印象としては、メディアに よる報道と実際の目で見た。肌で感じた内容とはやはり違う。つまり僕としては、それほ どの驚異を感じなかったのが本音だ。しかし資源のない、建国の浅い国においては、国民 の教育は国の存続に関わる重要問題であり、国策として教育へ取り組むは姿は真摯であり、 感銘を受けた。
 なにしろ、国内の人口の80%はメガネをかけている国であるのだ。(これは国の問題 となっている)その勉強する時間は相当なものであろう。でなければ室内照明の問題だろ
*世界でも有数の勉強国 資料3

・HUAMIN PRIMARY SCHOOL

 シンガポール特有のスコールの中での視察だった。ここは、公団団地内にある小学校で あって、日本で例えれば、光が丘団地ないにある光が丘小学校という位置づけだ。
先生方は大変熱心に学校を案内してれた。ITに関する点では、Saint Anthony's Canoss ian Primary Schoolとほぼ同じだ。授業は半日だが、午後子供を預かる制度もある。そこ にもコンピュータは設置されている。
 ここもそうだが、コンピュータは耐用年数やバージョンアップに耐える製品を選択して いる。となるとターワー型のディスクトップと17インチカラーCRTとなっている。一 方現在の日本では、教室の面積の問題か? コンパクト型のディスクトップと液晶モニタ ーを選択している。またはノートパソコンが多く導入されつつある。この場合使い回しと 耐用年数は劣る。しかし省エネの観点からみると消費電力が少なくいい点もある。

・冷房に関して

 日本は文部科学省が、ヒートアイランド化による都市の温度上昇にため、夏場、暑さで 学習効果が率が低下している問題から小中学校、高校の「教室冷房化計画」が打ち出され た(2001.8.16)。一方、シンガポールの小学校では、1年中ヒートアイランドだが、ほと んどの教室に冷房はない。
 汗をかきながら、風を入れるために窓を開けているので、相当明るくなっている教室で、 プロジェクターの暗い画面を懸命に見つめる子供達。その子供達は80%近くメガネをか けている。これが日本の目指す学校とは思えないが、教育レベルをあげるという目的を達 成するためとすれば効果はあがっている。

・ハリウッド映画的なIT

 また設備的な観点かみると学校の省エネとか省力は、夜間電力利用の蓄熱式の空調、 設備全体を管理するIT技術と、日本の方がはるかに進んでいる技術もある。
日本がITでシンガポールより遅れていることは、キャリア(インターネット)インフラ 面では確かにそうだ。しかし島国という伝統から日本人の血に流れているリサイクル社会、 江戸時代は究極のリサイクル文化だったという話もあるくらいに、「無駄は恥」という文 化がITという技術と結びつき新たに世界をリードするものとなるだろう。
 戦後、アメリカ文化の影響か、ITもハリウッド映画の影響を受けている。シンガポー  ルでは「IT=アメリカの下請け仕事」となっている。となれば日本的なITもいいじ ゃないか?
 これからは日本的なIT利用が世界をリードすると僕は思うのである。

 終わり 転用不可